生態 ~アルゼンチンアリ(Linepithema humile)とは?

アルゼンチンアリとは元来、日本に生息するアリではありません。

どこから来たのか?

日本では、1993年7月に広島県廿日市市で確認されました。発見された場所は、港のそばであったことから、おそらくコンテナーや木材などの交易物資に入り込んだものが偶然に持ち込まれたものと推測されます。

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アルゼンチンアリは人間の移動に付帯して分布を拡大する放浪種です。
現在、北米、南アメリカ、オーストラリア、ハワイ、ヨーロッパの地中海性気候地域などに侵入・定着しています。アルゼンチンアリはブラジル南部からウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチン北部に亘る地域を原産地とするアリです。アルゼンチンアリ(英名:Argentine Ant)と呼ばれていますが、アルゼンチンだけが原産というわけではありません。ちなみにアルゼンチンではBrazilian Ant(ブラジルアリ)と呼ばれています。

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生態

食性:
アルゼンチンアリは基本的に雑食性であるため何でも食べますが、中でも砂糖や花蜜などの甘味成分を好みます。特にアブラムシやカイガラムシが分泌する甘露が好きで、庭木の樹幹や農作物の茎上を盛んに 行き来する姿を頻繁に見かけます。屋外ではこの他に、果実や種子、昆虫やミミズなどの死体(時には生きたものを襲うこともある)、空缶に残った飲料、犬の糞などにたかります。屋内では砂糖や菓子類はもちろん、肉じゃがや煮魚などの煮物、生ゴミ、調理具の洗い残し、牛乳パック、飼育されているカブトムシの餌やその幼虫などに盛んに群がります。また、寝ていた赤ちゃんの口元に付着したミルクにたかった例もありました。
営巣性:
アルゼンチンアリは在来種のように、地中深く巣穴を掘ることはありません。営巣場所は、植木鉢やプランターの下、家の壁の隙間や床下、ブロック塀やコンクリートの隙間や割れ目、人工芝や玄関マットの下、倒木や石の下、側溝蓋の下、放置された古タイヤの中、積まれた落ち葉の下、立ち木や雑草の根の隙間、畑地や空き地に放置された肥料袋、シート、板、ダンボールなどの下、空缶の中など様々ですが、比較的人手の入った環境を好む傾向があります。変わった営巣場所の例としては、台所に重ねてあったフライパンの下、駐車場に置いてあった自動車内(車内、エンジンルーム、トランク)などがあります。

【アルゼンチンアリが巣を作る場所の一例】

プランターの下 ブロックの隙間
ベランダ 空缶
古タイヤ 放置された古マットの下

【巣の様子】

 
巣内の様子  
動画:アルゼンチンアリの巣の様子
活動温度帯:
本種の活動温度帯は非常に広く、5〜35℃と言われています。在来種のように冬眠はせず、ほぼ一年中活動しており、真冬でも屋外で姿を見かけることは珍しくありません。暖冬となった2002年の冬には、積雪の上を歩行する本種が観察されました。広島地方では、例年、3月下旬頃より繁殖活動が盛んになり、9月から10月初旬にかけて個体密度が最大となります。
産卵能力:
本種の女王アリの産卵能力は非常に高く、条件が良いと1日に約60個の卵を産むとされています。この卵は約2ヶ月で成虫となります。女王アリは6月頃に羽化しますが、結婚飛行はせずに巣内に留まり、巣内で交尾、産卵を開始します。女王アリ、雄アリともに、羽化時には羽を有していますが、結婚飛行を行なわないため、この羽が使用されることはありません。
多女王制:
一般的なアリとは異なり、アルゼンチンアリの巣には多数の女王アリが存在します。大きな巣では何百もの女王アリがおり、1,000頭を越す場合もあるといわれます。この女王アリが前述したペースで産卵を続けるわけですから、その増殖スピードは在来種を遥かに凌駕することは言うまでもありません。
女王アリと働きアリ 羽を落とした女王アリ
女王アリと働きアリ(楕円で囲んだ個体が女王アリ) 雄アリ
  ※撮影:杉山 無断転載禁止

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なぜ、脅威なのか?

1.不快害虫としての被害

アルゼンチンアリは、しばしば集団となって家屋内に侵入し、食べ物にたかったり部屋中を徘徊することで、住人に対して不快感を与えます。地域によっては極めて大きな集団となり、しかも連日のように侵入を繰り返すため、住人にとっては大きなストレスとなるばかりか、一種の恐怖感を覚える人もいるくらいです。毒針は持たないので、人が本種に刺されることはありませんが、本種は非常に攻撃的な性質を持っており、小さな大顎で盛んに咬んできます。咬まれてもチクリと軽い痛みを感じる程度ですが、肌の弱い人や体質によっては、咬まれた跡が赤くなったり痒みが残ったりすることがあります。

2.農業害虫としての被害

アルゼンチンアリは、農作物の害虫であるアブラムシやカイガラムシと共生関係を結んでいます。アブラムシやカイガラムシが分泌する甘露を貰う代わりに、外敵から彼らを保護し、結果的にその被害を助長してしまっています。アブラムシやカイガラムシとの共生関係は在来のアリでも見られることですが、アルゼンチンアリの個体数の多さが、この関係を見過ごすことのできないものにしています。実際、廿日市周辺で家庭菜園や畑を持つ人に話を聞くと、最近10年間くらいでアブラムシやカイガラムシによる農作物の被害が急増しているといわれます。また、アルゼンチンアリ自身が、果物、柑橘類、イチジク、コーヒー、サトウキビ、トウモロコシ、綿などの芽、花、実をなどを直接的に加害する農業害虫としても知られています。

3.侵入地域で在来のアリを駆逐

アルゼンチンアリは、在来のアリを駆逐してしまうため、日本の生態系に悪影響を及ぼします。

  • 例1. フランス、ラングドックルション地方で、アルゼンチンアリはすべての在来のアリを排除した。
  • 例2. カリフォルニア、サクラメントバレーで、在来種27種の内16種がアルゼンチンアリにより姿を消した。
  • 例3. 日本国内でも、広島県廿日市市周辺では、アルゼンチン以外のアリを見かけることは殆どない。
クロヤマアリを襲うアルゼンチンアリ
(左下に見えるのはアルゼンチンアリによって切断されたクロヤマアリの触覚と脚)
※撮影:杉山 無断転載禁止

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特定外来生物に指定

2005年6月1日、特定外来生物被害防止法施行

・・・生態系、農林水産業または人の生命や身体に関わる被害を防止を目的とした法律。

  • ★特定外来生物の輸入や移動、飼養を規制
  • ★野外等に存する特定外来生物の防除を推進

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